少し前のこと。
妻が留守で、私が一人で食事をした時のことである。
フランスパンが半分ほど残っていたので、
それをオーブンで焼こうとした。
パンをオーブンに入れて、
タイマーのつまみを3分のところまで回した。
すると、ジジジジジジジジジジと音がし始めた。
後はこげないように注意しさえすればよい。
私は、スープをレンジで温めたり、
サラダを冷蔵庫から出したりお茶をついだりしながら、
パンが焼けるのを待った。
オーブンからは、相変わらずジジジジジジと音がしている。
やがて、チンという音がした。
ところが、オーブンを開けてみると、
パンは冷たいままであった。
おかしい。
私はオーブンに貼ってある注意書きを読んだ。
こう書いてあった。
「短い時間の場合は、タイマーのつまみを
いったん5分以上のところまで回してからセットしてください」。
うわ。
なんてアナログなのだろう。
私は、もう一度タイマーを、
大きく5分目盛りを超えたところまで回してから
3分のところにセットした。
ジジジジジジジジジとまた音がし始めた。
今度はちゃんと焼けているような音に聞こえた。
ところが、1分くらいたったところで中の様子を見ると、
どうも熱くなっているようには見えない。
私は、オーブンの扉を開けて、恐る恐る手を入れてみた。
中はやはり冷たいままであった。
音はしているのに、なぜ焼けない?
私は、どうしたものかと、途方に暮れてしまった。
その時ふと、オーブンからたれ下がっている、
あるものが目に入ってきた。
コンセントであった。
オーブンのコンセントが、抜けたままになっていたのである。
「ジジジジジジジという音にすっかり騙されたよ」。
帰ってきた妻にそう言うと、
妻は死ぬほど笑ってからこう言った。
「気づけよ。わかるじゃろ普通。じいさんか、おまえは」。
うーん・・・
じいさんでもコンセントくらいわかる気がする。
パンさえ焼けない中年に、
世間の風当たりは思いのほか強いのである。

