ある経営者に勧められて読んだ
事業継承の本にこんなことが書いてあった。
「遺言状は、財産分与についての故人の意思を示す公的証書ですが、
一般に考えられているほどの強制力はありません。」
驚いた。
遺言状が役に立つのは、
その内容についてだれも文句を言わなかった時だけで、
相続人の一人でも異を唱えたら、
全員が同意するまで遺産を自由にすることはできないと言う。
話し合いになっても、最終的に遺言状通りに執行される訳ではない。
故人の希望は、その程度の軽いものなのだそうだ。
その昔、「犬神家の一族」という映画があった。
血で血を洗う猟奇的な連続殺人の発端は、
莫大な遺産を所有する、犬神佐兵衛の遺言状であった。
この映画を観る限り、遺言状は絶対無二のものである。
誰がどんなに泣きわめいても従わなくてはならない、
絶大な強制力があるように見える。
もしも、当時も本に書いてあることが正しいのであれば、
佐武くんも、佐智くんも、青沼静馬くんも、
あんな、アクロバティックな死に方をしなくてもよかったことになる。
となると、一連の殺人事件の真犯人は、
犬神松子夫人ではなく、古舘弁護士なのではないか。
遺言状を読み上げた後で、
「ええと、この遺言状に納得できなかったら、
遺産分割協議となりますので、取り乱さないようにしてくださいね」
と、ひとこと言えばよかったのではないか。
映画が公開された年が1976年。
34年もたって、水を差されたような気分である。



