指導員のTさんに同行して、交通安全の呼びかけ訪問に行った。
Tさんはまだ土地勘がないために、
ドンキホーテで買ったというナビを頼りに訪問先を目指した。
ところが、ナビが示す場所に目的の家がない。
車を停めて地図を確認していると、
いつの間にかおばあさんが近寄ってきて車の中を覗きこんでいる。
「どうかしなさったか」。
Tさんが、ある家を探しているのだと言うと、おばあさんは
「そのんところをぐるっとまわって、2軒目だが」
と親切に教えてくれた。
田舎はこれだからいい。
おや?
ふと、おばあさんが右手に箸を握っていることに気がついた。
何か食べていたのだろうか・・・。
私たちはお礼を言って、車を出した。
教えられた通りぐるっとまわって2軒目の家に来た時、
ふいに、前の路地から誰かが走って出てきた。
そのおばあさんだった。
「違う違う。〇〇さんは、あっちの赤い屋根の家じゃ。うそ教えるとこじゃった」
そう言って、その家の方角を指差したが、
右手にはやっぱり箸が握られていた。
まるで磁石の針のように、その方角を明確に指し示している。
昔から、食事のときに箸で人を指すことを、
「指し箸」と言って、してはいけないこととされている。
ならば道案内を箸でするのはどうなのか?
はしたないなどと言うつもりはないが、
ひょっとすると、その地域の昔からの習わしなのかもしれない。
なわけないか。
探していた家はそれからすぐに見つかった。

